認知症と血行の関係性について|近年の研究から見る原因と予防
認知症
脳神経外科
監修医師プロフィール

湘南医療大学臨床教授 脳血管障害 認知症 地域医療 医療介護連携
石井映幸 医師
帝京大学医学部を卒業。同脳神経外科教室に入局し、医学博士取得。医局長、医学部講師を経て現職。帝京大学医学部非常勤講師、湘南医療大学臨床教授を兼務。「認知症になる人ならない人の生活習慣」など認知症に関する著書も執筆。
人間の脳は体重の約2%ですが、心拍出量の約15%が脳へ運ばれ血流と関係性が深い臓器です。最近の研究では、高血圧・糖尿病・喫煙などの血管リスク因子や、脳の小さな血管の障害(脳小血管病)が、認知機能低下や認知症リスクと関連する可能性が示唆されています。なぜ血行が認知症に関係するのか、最新の知見を交えて分かりやすく紹介します。なお、本記事の血行として下記の通り定義します。
• 全身循環:心拍出量・血圧・動脈硬化など(全身の血管の健康)
• 脳血流(脳灌流):脳へ届く血流(CPP=MAP−ICP などの概念、脳血流の自動調節)
• 局所脳血流:SPECT 等で見る部位別の脳血流
脳は血流依存が強い臓器

私たちの脳は体重の約2%の重量ですが、心拍出量の約15%が脳へ運ばれます。これは、脳が大量の酸素や栄養を必要とするとても“エネルギー消費の大きい臓器”だからです。
また脳の神経細胞は、酸素が数分届かないだけでもダメージを受けてしまうほどデリケートです。つまり脳は、血流が滞れば働きが弱まりやすい「血流に大きく依存した臓器」なのです。
認知症と血行に関する近年の研究動向
これまで認知症は「脳の細胞がゆっくり壊れていく病気」というイメージが中心でしたが、最近は、脳血流の低下や脳小血管の障害が、認知機能低下と関連する可能性が示唆されており、その関係が注目されています。
筑波大学附属病院の報告では、MCI(軽度認知機能障害)の人を対象に、SPECTで局所脳血流の経時変化を評価しています。その結果、多要素デイケア(運動・認知・音楽療法など)への参加状況と、特定部位の脳血流変化との関連が報告されています。
(※因果関係を示すものではありません)
認知症とはどんな病気?

認知症(にんちしょう) とは、病気や障害によって脳の働きが低下し、もの忘れだけでなく、理解力・判断力・気持ちのコントロール・生活の遂行力などが徐々に難しくなる状態のことを指します。加齢によるもの忘れとは異なり、日常生活に支障が出る症状が特徴です。
認知症とアルツハイマー病の違い
認知症は、原因となる病気が複数ある「状態(症候群)」の総称です。代表的な原因疾患の一つがアルツハイマー病です。従って、認知症とアルツハイマー病の違いとは症状と病名の違いになります。
認知症のサイン
●もの忘れ:最近の出来事を思い出しにくい
●理解力の低下:何度も同じ質問をする
●集中力の低下:大事なものをよくなくす
●性格の変化:怒りっぽくなる、やる気がなく落ち込む
上記の4点が主に認知症初期症状として挙げられます。
脳の血行と認知機能の関係

脳は体重の約2%の重量で、体の酸素・ブドウ糖の約20%を消費するエネルギー消費が大きく、そのエネルギーを運ぶ血流とも関係性が深い臓器です。血行不良が続くと、認知症に関わらず脳の健康も損なわれやすくなります。特に脳の神経細胞は血流悪化による酸素不足、虚血に伴う酸化ストレスなどの影響を受けやすいことも特徴です。
血流低下が認知症と関係する理由(近年の研究)
脳血流の低下により脳へ酸素・栄養が届かないことが認知機能障害の一因となり得ますが、病態の詳細は未解明な点も多いとされています。2018年の京都大学のマウス研究では、脳血流の低下が、ミクログリアの活性化などを介して認知機能に影響し得ることが示唆されています。動物研究の結果がヒトの認知症予防や治療効果を意味するわけではありません。
また、日本神経学会が2024年に発行した臨床神経学にて、認知症を伴わないパーキンソン病患者の脳血流スペクト検査にて、後頭葉の脳血流が低下した例で認知症発症リスクが高かった研究成果も発表されています。
(※パーキンソン病集団での認知症移行の研究であり、一般の認知症とは異なる)
血流を悪くする生活習慣と、その影響
認知症リスクにも関わる血行不良、その血流を悪くする生活習慣は認知症以外にも病気のリスクを高めます。下記、その生活習慣と医師監修による対処・予防方法などを記載しております。
●運動不足や気温の低下
●過度の飲酒
そのほか、過度のストレスや喫煙習慣・偏った食生活など血行不良になりえる生活習慣には注意が必要です。
血管を守る生活習慣
血流は日ごろの生活習慣により左右されます。無理のない範囲で生活習慣の見直しから始めてみましょう。
●軽い運動を行う
激しい運動は必須ではありません。ストレッチや散歩、足踏みなど筋肉を動かし血液の巡りを促進することが目的です。
●体を温める
普段、シャワーのみで済ませている方は湯船に浸かって体を温めるようにしましょう。入浴は「無理のない範囲」で行い、のぼせ・脱水・ふらつきに注意しましょう。目安は体調により異なりますが、長湯は避け、入浴前後の水分補給を心がけます。
※高齢の方、心疾患・不整脈、脳血管疾患、起立性低血圧のある方、飲酒後、体調不良時は特に注意が必要です。心配がある場合は主治医に相談してください。
血行を良くすることで認知症は予防できる?
認知症は遺伝・加齢など脳の血流以外でも発症するリスクがあるため、血行を良くすることで認知症が“完全に予防できる”とは断言できませんが、運動・禁煙・バランスのよい食生活、そして血圧・血糖などの管理は、認知機能低下や認知症のリスク低減に寄与する可能性があります。
高血圧が持続すると脳小血管が障害され、認知機能低下に関連し得ます。国立長寿医療研究センターが発行するMCIハンドブックにも高血圧が原因の一端として掲載されています。つまり、血圧管理はリスク低減策の1つとして挙げられます。
まとめ:血管(血流)を保つことが、脳を守る第一歩

WHO(世界保健機関)の認知症予防ガイドラインでも、運動・禁煙・食生活の改善は強く推奨されており高血圧や糖尿病対策も予防に有効とされています。
従って、血流を悪化させる日常生活を改め血行を保つ事が認知症の発症リスクを下げることに繋がります。
監修医師からのコメント
認知症予防で大切なのは、「特別なこと」を足すよりも、脳の血管を傷める要因(高血圧・糖尿病・喫煙・運動不足・睡眠不足など)を少しでも減らすことです。散歩を習慣にする、禁煙する、塩分を控える、睡眠を整える、健診の数値を放置しない――派手さはありませんが、続けるほど確かな力になります。
そして、気になる物忘れがあれば「年のせい」と決めつけず、早めに医師へ相談してください。物忘れにはさまざまな原因があり、認知症と似た症状を示すだけで、治療や生活調整で改善が期待できる状態もあります。
今日から、無理なく対策を積み重ねていきましょう。
監修医師プロフィール

湘南医療大学臨床教授 脳血管障害 認知症 地域医療 医療介護連携
石井映幸 医師
帝京大学医学部を卒業。同脳神経外科教室に入局し、医学博士取得。医局長、医学部講師を経て現職。帝京大学医学部非常勤講師、湘南医療大学臨床教授を兼務。「認知症になる人ならない人の生活習慣」など認知症に関する著書も執筆。
